Redmineの日本語訳を作るときに考えていること

前田です。このブログではしょっちゅうRedmineのことを書いていますが、今年最初の担当回もやっぱりRedmineです。画面に表示される文言の日本語訳の話です。

オープンソースのプロジェクト管理ソフトウェア「Redmine」は日本語を含む約50の言語に対応していて、ユーザーごとに好みの言語を選択できます。それぞれの言語への翻訳は各国の有志の開発者が行っていますが、日本語訳は近年はほぼ私が行っています。

自分が翻訳した文言がどのくらいあるのか数えようとして途中で断念したのですが、確認できただけで331件ありました。Redmine 3.3.2で定義されている文言1033件(フレームワーク「Ruby on Rails」の文言は除外)のうちおよそ3割です。

初めて日本語訳のパッチを送ったのが2007年秋で、気がつけば10年近くRedmineの翻訳に関わっていました。

私は英語が得意ではありませんが、それでも10年近く日本語訳を続けていると、なんとなくノウハウのようなものがたまってきた気がします。普段、Redmineの画面の日本語訳を作るときに考えている・気をつけていることの一部を紹介します。


日本語の訳文を格納したファイル。英文の箇所(1233行以降)は未翻訳

一貫性を保つ

当たり前の話ではありますが、同じアプリケーションの中では、同じものを指す言葉は同じ日本語に訳されなければ、使う人が混乱してしまいます。また、文の雰囲気も揃えるよう気をつけています。

表記についても揺らぎがないよう、送り仮名については原則として内閣告示「送り仮名の付け方」の本則に従うようにしています。また、漢字とひらがなの使い分けは共同通信社の「記者ハンドブック」を参考にしています。

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違和感のない表現

Redmineは企業で使われることが多いので、業務システムとして違和感のない表現を心がけています。Windowsやオフィスソフトの表現を参考にすることもあります。

実際の利用状況を確認する

新しい文言を翻訳するときには、必ずその文言が表示される画面を確認しています。どんな画面で・どういう状況で使われるのかを理解した上で訳文を作ります。英語としては誤っていないものの状況に対して違和感がある訳文を作ってしまうのを防ぐためです。

以下の画面はチケットの一括編集時にカスタムフィールドの値が失われるときの警告画面です(Feature #22600、Redmine 3.4.0で追加予定)。日本語訳を作る前に、テスト環境で翻訳対象の文言を表示させるための操作を行います。

使われる画面・状況を調べた後、日本語訳を考えます。結果、次のような訳としました。

元々の英文を素直に訳すと「選択したオブジェクトの1つ以上のフィールドの値が更新によって自動削除されます」といった感じでしょうか。しかし、実際の訳文は、素直な訳から少し変更したものとしました。

まず、チケットの一括編集以外では使われない文言なので、元の英文にはない「編集操作」「チケット」などの言葉を入れてより具体的にしました。また、警告表示はなるべく短い文で確実に情報を伝えるべきなので、省略しても支障なさそうな "automatic"、"one or more"、"on the selected objects" に対応する言葉はあえて訳文に含めませんでした。

その文言が表示される画面・状況、関係する機能を理解することで、できるだけわかりやすい訳文を作ることを目指しています。

原文への忠実さにはこだわらない

時には、分かりやすさを優先して、原文にあまり忠実ではない訳文としていることもあります。いくつか例を挙げてみます。

"Parent tasks attributes" → 「親チケットの値の算出方法」

「管理」→「設定」画面の「チケットトラッキング」タブ内の、親チケットの進捗率や優先度の値を子チケットと連動させるかどうかの設定の名称は、元の英語を直訳すると「親チケットの属性」となります。ただ、何が設定できるのかをより明確に伝えるために、日本語訳は「親チケットの値の算出方法」としました。


英語の画面は "Parent tasks attributes"

日本語の画面は "親チケットの値の算出方法"

"Ask" → 「都度選択」

同じく「チケットトラッキング」タブ内の設定「チケットをコピーしたときに関連を設定」は、既存チケットをコピーしてチケットを作成したときに「コピー元」「コピー先」の関連づけを自動で行うかどうかを指定します。この中の選択肢の「都度選択」は、英語では"Ask"となっていました。

忠実に訳すと「聞く」「確認する」となりますが、実際の操作画面を見ながら考えた結果、「都度選択」にしました。コピー操作のたびにチェックボックス「コピーしたチケットに関連を設定」をON/OFFして動作を選択するので、「都度」という言葉が状況をよく表していると感じました。ただ、今から思えば「都度指定」でもよかったかなと思います。


選択肢内の「Ask」の訳は「都度選択」とした

まとめ

仕事で翻訳に関わっている方から見ると当たり前だったり、もしかすると非常識なものもあるかもしれませんが、自分のやり方を紹介してみました。日本語訳というよりは、元の英文をネタに日本語の作文をしているように感じます。

オープンソースソフトウェアへの貢献として日本語訳は結構手を付けやすいと最初は考えていたのですが、実際にやってみて初めて、いろいろ考えることが多いことに気がつきました。数年前に自分が訳した文言を見ると、直した方がよいと思うものがいくつかあります(実は少しずつ直しています)。

今後も、みなさんに違和感を感じさせないよう気をつけて、私の訳文をお届けし続けたい思っています。


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